転がる五円玉 ~旅と城と山~

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冬のハンガリー温泉旅 その7 ~ケストヘイ観光② フェシュテティッチ宮殿~

さて、教会を見たので次はケストヘイ最大の観光地であるフェシュテティッチ宮殿に向かいます。舌を噛みそうですが、本当にこういう名前。

通りの奥に見えている塔は多分宮殿のですね。

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ネオバロック様式の門を抜けると、
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立派な館が目の前に現れます。

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これがフェシュテティッチ宮殿です。オーストリア=ハンガリー帝国の大貴族であるフェシュテティッチ伯爵家の居城でした。(宮殿か城か、は文献によって表記が揺れている様子)

フェシュテティッチ家は16世紀にクロアチアから移住してきた一族です。17世紀〜19世紀にはオーストリア=ハンガリー帝国の要職を歴任し、ハプスブルク家の皇帝からの信頼も厚い一族でした。例えばポール・フェシュテティッチ3世はマリアテレジアの宮廷参事官を務めていたりします。

第一次世界大戦で帝国が崩壊してからも、フェシュテティッチ家はハンガリー民主共和国の要職に就いていました。

フェシュテティッチ家の業績としては、1797年にヨーロッパ初の農業単科大学ゲオルギコンを創立したことが特筆されます。また、城の中で文芸の祭典、いわゆるヘリコン祭りを主催して、19世紀にフェシュテティッチ宮殿はハンガリーの詩人や著述家が集まる一大文芸サロンとなっていたようです。

しかし、1944年にはソビエト赤軍の侵攻に伴い一族はハンガリーを退去。残された宮殿は博物館として存続しています。

 

要するにハンガリーの地方貴族の屋敷です。日本で例えれば、江戸時代の地方の藩の屋敷と言った感じでしょう。

事前に地球の歩き方でその事を知ったので、「ハンガリーの地方の屋敷なんて大したことないだろ」と侮っていたのですが……

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これがまぁびっくりするぐらい超立派

もちろん、ヴェルサイユ宮殿やシェーンブルン宮殿のような破格の巨大さはありません。ですが、地方の田舎にここまで立派な建物がある事がとても驚き。

外からパッと見ただけで、この宮殿を建てるために多くの資本と人力を要したことが分かります。当時のハンガリーは地方貴族ですらここまでの宮殿を建てられるような「国力」があったんですねぇ。

(ちなみに更に西にはエステルハージ伯爵家というフェシュテティッチ家を超える大貴族の宮殿があったりします。ここよりも更に大きいらしい。どんだけ……。)

 

さて、宮殿の中に入ってみましょう。
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1人3000フォリント(≒1200円)です。ハンガリーにしては高い。
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内側から眺めるとこんな感じ。透き通る青空にベージュの壁が良く映えます。
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宮殿自体は1745年に建設が開始され100年以上の工事の末に完成しています。当時のオーストリア=ハンガリー帝国はオスマン帝国を打倒して乗りに乗っていた時代でした。シェーンブルン宮殿のような後期バロック様式の豪華な宮殿があちこちに建設され、ここも同様に後期バロック様式で建てられています。

 

ちなみに、日本のアイドルグループがフェシュテティッチ宮殿でMVを撮影していたようです。しかもつい最近の話。

blog.livedoor.jp

なぜここで撮ったのかは謎。

 

さて、まずは宮殿の中ではなく付属の馬車博物館に行ってみます。
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フェシュテティッチ家の馬小屋を改造したようです。宮殿よりは質素な感じ。入場料はさっき払った代金に含まれるので、さっそく中に入ってみます。

 

おー、馬小屋にしては広い。
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すげぇ……広い。デカい。これが馬小屋ですと。フェシュテティッチ家、すごいな……。
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教室ほどもありそうな部屋が8つほどもあります。もちろん装飾は最小限ですが、、、あまりに広い。一体馬を何頭飼っていたんだろう。

上に書いた通り、フェシュテティッチ家は欧州最初の農業単科大学を設立しています。農業と馬は現在では中々結びつきませんが、当時は農耕に馬を利用する事は多々あったのでしょう。この馬小屋も趣味だけではなく、実用的な面もあったのかもしれません。

 

ここには当時のフェシュテティッチ家が所有した馬車が所狭しと並んでいます。
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これは灯付きの馬車。
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これはシンデレラが乗っていそうな馬車。こういう華美な馬車って実在したんですね。
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これは屋根付きの長距離用馬車。
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これは雨天用の馬車。
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と、まぁこんな感じです。

 

ただ、馬車の端っこには1908年発売のフォード・モデルT型が展示してありました。
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馬車とこれを見比べると、タイヤとエンジンの他はあまり変わりない事が分かります。当時の自動車とはまさに「動く馬車」だったのでしょう。

30分ほど見学して出ました。馬車に興味があれば2時間くらいは必要かもしれない。

 

今度こそ宮殿へ行きます。

この角度から見る宮殿も中々イイ感じですね。
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5分ほど宮殿の周りをウロウロして入口を発見。

宮殿内には101の部屋がありますが、現在見学できるのは右翼2階にある18部屋のみです。
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階段を登っていざ見学開始。

既にバキバキのバロック様式という感じです。手すりの装飾とかがクルックルしてる辺りが。
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白い壁の廊下。華美になりすぎず、さりとて質素でもないバランスが取れた雰囲気ですね。
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最初の部屋は城の創設者であるクリストファー・フェシュテティッチを記念しています。
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暖炉の上に小さな肖像画があり、それが多分クリストファー・フェシュテティッチです。

ここに置いてある椅子はロココ様式っぽいですね。クネクネした曲線が特徴的です。
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続いて階段に着きました。ここには城の所有者であったフェシュテティッチ家の面々の肖像画が飾られています。
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ハリーポッターなんかで廊下に肖像画が飾られているのは目にしましたが、ヨーロッパの宮殿ってマジで肖像画をあちこちの飾るんですね。

うーん確かに、ここを見ると肖像画が語りかけてくるような雰囲気もあります。とにかく重厚。

 

次は黄い壁の部屋です。この部屋は暖炉や天井、ドア枠が1800年代に新ルネサンス様式でリフォームされているため、重々しい雰囲気をしています。f:id:harimayatokubei:20200918003546j:image

暖炉の下には、タッシロ2世の妻であったスコットランド出身のメアリー妃の愛犬の大理石像があります。

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多分この像だけで当時の民衆の生涯年収くらいはするのではないでしょうか。ん〜実に貴族文化だ!

 

赤い壁の部屋に入りました。
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ここも新ルネサンス様式でリフォームされており、天井にはフェシュテティッチ家の紋章がドーンと彫られています。
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この部屋は調度品が全体的にオリエンタルですね。暖炉にあるパネルは中東風。

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部屋の奥にはおそらく日本製の箱(?)があります。おそらくは明治維新後に輸出されたものでしょう。
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さて、赤い壁の部屋を抜けると遂に着きました。

フェシュテティッチ宮殿で最大の見どころであるヘリコン図書館です。
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ジョルジョ・フェシュテティッチ伯爵が1799年~1801年に創立したこの図書館は啓蒙主義・古典・農業科学に至るまで様々な文献を保存しています。日本に関する文献も当然あります。

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(これを探すのに10分かかった。)

 

とにかく四方の壁一面が本で埋め尽くされている光景に圧倒されます。

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図書館の様式自体はナポレオン時代のフランスで流行した帝政様式です。堅実で重厚な装飾が特徴。
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まるでハリーポッターのホグワーツ城のような雰囲気。ところで、この部屋には本当に秘密の扉があります。上の写真の左上にある扉がまさにそれで、本棚の中に屋根裏への扉が隠してあるのです。

私がこの部屋、いやこの宮殿で最も感動したのはここです。フィクションでしか見た事がない「本棚の隠し扉」の実物が、目の前にある!これは興奮せざるを得ません。いや〜来て良かった〜!

 

フェシュテティッチ宮殿は第二次世界大戦をくぐり抜けて現存する貴重な存在ですが、イリヤ・シェブチェンコというロシア人がいなければ凄惨な略奪に晒されていたかもしれません。彼はソ連軍がケストヘイを占領してからこの宮殿の図書館を訪れ、あまりの見事さに感嘆しました。そして「化学汚染地域」の看板を入口に立てて掠奪から宮殿を守ったと言われます。

文化を作るのも壊すのも、守るのも人間である事がよく分かるエピソードです。

ちなみにここにはヘリコン図書館に関する日本語の解説がありました。

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驚くべき事に機械翻訳ではありません。すごい。

しかもエスペラント語の解説まであります。展示人の趣味でしょうか?
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ヘリコン図書館の次は私用の礼拝堂です。金色に塗装された円柱や大理石模様に塗られた壁は古代風ですね。
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1801年に作られました。ちなみに祭壇にある像は前回訪れた聖母教会からの貸与品のようです。貴族ともなるとそんな事ができるのか。

 

次の赤い壁の間は「マリアテレジアのサロン」です。
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当時の家長ポール・フェシュテティッチはマリアテレジアに重んじられたようなので、その感謝の意味も込めたのでしょうか。

赤色がとにかく鮮烈な部屋です。ところでこの壁紙をよく見ると、
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なんだか東洋風の雰囲気もあります。当時流行していたジャポニズムの影響でしょうか?

 

次は「青のサロン」です。
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この部屋は調度品に至るまで帝政様式になっています。

とにかくクネクネしたロココ様式と違って直線と正円で構成されているのがいいですね。ロイヤルブルーの壁紙も相まって力強くも落ち着いた空間になっています。

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次は「メアリー・ハミルトン妃のサロン」。こちらはロココ様式らしい軽やかな雰囲気です。
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の他にもいくつかの部屋を抜けると、最後に大広間に出ます。壁が金細工で装飾されていたりと明らかに豪華な雰囲気。ここは現在でも結婚式場や宴会場として利用されているようです。

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ちなみに、この時はオペラ歌手がニューイヤーコンサートのリハーサルをしていました。

リハとはいえとてつもない声量!!これがプロのオペラ歌手か。見た目は普通のオッサンなのに……すごい迫力です。

ここを抜けると最後は小さな展示室に入ります。
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フェシュテティッチ家の家系図や、現在の当主の写真もありました。
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これにてフェシュテティッチ宮殿の見学は終了。全部で2時間ほどかかりました。

ここで感じたのはハンガリー貴族の財力とセンスです。明らかに超一級品を分かる家具や調度品がそこら中にありましたが、過度に派手にはならず重厚で、気品に溢れた空間に仕上がっています。これは中々醸し出せるものではありません。

ヨーロッパの宮殿を訪れたのは初めてでしたが、いやはや……とにかく凄かった。是非とも他の宮殿にも行ってみたいものです。でも、いちいち解説を全部読んでいるとキリがない!何も考えず「すごい~」とだけ感じても良い気がします。
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さて、そろそろメインであるヘーヴィーズ湖に行かねば……。