パノラマ&表銀座縦走 その2:大天荘~槍ヶ岳~殺生ヒュッテ
常念岳からの光景はまさに日本の山岳風景の象徴ともいえるものだった。槍ヶ岳から始まり奥穂高岳で終わる稜線。豪快とも壮大とも言える山の数々。
深田久弥曰く「富士山は古い時代の登山の対象で、近代登山のそれは槍ヶ岳である」
これは正に的を得ている言葉で、槍ヶ岳ほど象徴的な意味を持つ山は少ない。登山を始めた者にとって「いつかは槍ヶ岳」は半ば合言葉のようになっている。
その槍ヶ岳に今日行く。
今日が登山人生の最終日という訳でもないけど、確実に区切りの日となる。心はウキウキというより、静かに燃える炎。メラメラと燃える闘志!待ってろ槍ヶ岳!今日こそ登ってやるぜ。絶対に!
そういう覚悟を持って朝3時半、大天荘テント場で目を覚ましたのです。
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登山日 2023年8月11日
コースタイム
<大天荘>5時00分ー<大天井ヒュッテ>5時25分ー<ヒュッテ西岳>7時30分ー<水俣乗越>8時40分ー10時00分<ヒュッテ大槍>10時15分ー<槍ヶ岳山荘>11時10分ー12時40分<槍ヶ岳>12時50分ー<槍ヶ岳山荘>13時10分ー<ヒュッテ大槍>13時45分ー<殺生ヒュッテ>14時10分着
合計9時間10分
前日
harimayatokubei.hatenablog.com
ん~爽やか。気温は15℃くらいか。ちょっと肌寒いくらいだけど、山だと心地よい気温です。
さてこの爽やかな景色を写真に収めるか……
あれ!?カメラの電源が点かない!?
おいおい嘘だろ、と思い電源をオンオフしたら一瞬だけ電源が入った。よかったと思うのも束の間、すぐに電源が落ちて二度と点かなくなった……。
おいおい。
まさに絶望。これから槍ヶ岳に行くタイミングで壊れるとは……。
完全にやる気を失ったので友人に燕岳から撤退を進言するもあえなく却下される。まぁ槍ヶ岳を前にして引き返すバカはいないか。
冒頭の覚悟とはなんだったのかという勢いでとにかく落胆。帰宅後に調べたところ、カメラの故障原因は結露のようでした。そして結露の場合、一度電源を入れるとショートして二度と点かなくなると。つまりさっき電源をオンオフしていたのは完全に失敗だったのです。
\(^o^)/オワタ
・・・・・・まぁ長いこと旅をしていたらこういう事もある。ここから先は友人氏の写真を譲り受けてブログに使わさせて頂きます。ありがとう。
そんな事をしているうちにも日が登る。槍ヶ岳までは8時間程度の予定なのでさっさと出なければ。
テント場を横切って登山道に踏み出すともうこの絶景が展開してきた。いやぁ、表銀座はすげぇなあ。
大天井ヒュッテに向かってちょっと下っているといつの間にかモルゲンロート。コントラストの強い夏山でも朝の一瞬だけは穏やかな顔を見せてくれる。
あの遠い槍ヶ岳に行くのか。体力は温存しておきたい。という思いをよそに300m近い激斜を下って大天井ヒュッテへ。
大天荘と大天井ヒュッテは大天井岳の近くという認識でしたが、思ったよりも離れていましたね。タルチョが張られていてなんだかネパールっぽい雰囲気。
ここで上着は脱いで半袖になります。明け方だというのに既にちょっと暑い。この先が思いやられます。
出発してしばらくは南アルプスのような地味な道。表銀座といってもずっと景色がいい訳じゃないのね。
巻き道が終わったらビックリ平。槍ヶ岳が思ったより近くに見えるからビックリ平らしいけど、ほんまにビックリするんか?
うおっ!
ビックリ!!
こいつは驚いた。大天荘から1㎞くらいしか近づいてないけれど思ったより近く見える。
槍ヶ岳山荘が肉眼で見えるようになったから近く思えるのかも。
それにしても良い景色。完璧じゃん。点数にすると100点。でも先は長い。小休止して出発です。
この辺の稜線は常に穂高~槍の稜線が眺められウキウキしっぱなし。荷物は重いけど心は軽い。ちなみに日差しは強い。
赤岩岳を越えるといよいよ東鎌尾根の全貌が目の前に広がってきます。地図見てわかっちゃいたけど水俣乗越までめっちゃ落ちるのね……。
ため息が漏れるほどの光景。何度でも書きますが最高です。
強い日差しの中進むと穂高岳をバックにヒュッテ西岳が見えてきました。可愛らしい小屋と力強い山のギャップがいいね。あとこのアングルだと吊尾根が本当に吊ってるみたいでちょっと感動した。
ヒュッテ西岳到着。
ここは何よりトイレが感動的に綺麗だった!無臭で逆にフローラルな香りすら漂っている。標高2700mでまさかの快適排便体験。
この稜線の小屋はどこも設備が整っており山としての格の高さを感じます。皇居の前の道って普通の公道なのにきちんと整備されてるじゃないですか。あういう感じです。どこでも最高に整備されています。
小休止して出発。ここから暫くは勿体ないくらいガシガシ下ります。この辺は景色こそ日本離れしているけど植生とか道の雰囲気はいかにも日本の山って感じ。
友人のペットボトルが谷に落ちるなどのアクシデントがありながらも概ね下り切りました。
基本的には良く整備されているけど筆者の視線の先は……
崖。どこまで下ってるんだこりゃ。
水俣乗越に到着。いよいよ本日の核心部。東鎌尾根の開始です。割と足に疲れが来ていてこのまま槍沢に下りたい気持ちにかられる。
しかし、この突き抜けるような青空を目にしてエスケープする手はあろうか。行くしかないのである。
斜面を登り、ちょっと下り、また登り、の連続。確実に足に疲労が溜まる道のり。
整備状況は相変わらず良く、木道や階段がこれでもかと整備されている。
そして着いたのが通称「恐怖の三段梯子」。左右崖で20m近い落差を一気に下るのです。
降りている間は別に怖くなかったけど下から見上げると結構高くて驚き。というか下り切った後痩せ尾根の方が怖いかもしれない。
こんな道もありつつ、ジリジリと歩みを進める。つらい……。背中の重さもさることながら、日差しが強烈で体力が奪われる。一歩一歩が重いのも久しぶりの感覚だ。
ヒーコラ言う元気も無く歩いているとヒュッテ大槍まであと100mとの看板が。これはちょっと元気出るぞ。
そして目の前には槍ヶ岳が。ち、近い!これは近いぞ。槍ヶ岳山荘前にいる人まで見えてきた。もうちょっとだ。
ヒュッテ大槍到着。水俣乗越からここまでの道は間違いなく私の山人生で最も疲れた区間でした。
今日は槍ヶ岳山荘にテント泊する予定だったものの、あそこまでテント持っていくのは無理と判断してここでデポする事にしました。槍ヶ岳登頂後に戻ってきて殺生ヒュッテに張ることとします。
という訳でここからはアタックザックを使用。うーむ、我ながら山を舐めすぎな感。まぁ雨具と水が入れば十分ってものよ。
東鎌尾根の最終区間を軽身で登ってゆく。前日も感じたのですが、体が軽くて快適そのものなのである。
この辺の雰囲気は穂高の吊尾根っぽい感じ。鎖とかはあるけどどれも易しくて歩きやすい。
いよいよ槍ヶ岳山荘の直下に到着。ここまで来ればもう槍に登頂したようなものよ。
荷揚げのヘリコプター待ちに5分ほど引っ掛かる。お預けを食らってる気分だが、荷物は軽いしまだ天気は良いし気分は悪くない。荷揚げご苦労様です!
よっしゃあ遂にここまで来た。槍、登るぜ!
んんん?
なんかすごい並んでないか?
列の最後尾に着いたけど全然動かない……。1分ごとに50㎝進むような圧倒的牛歩さ。
「もう下ってきちゃったよー」
「1時間待っても登れなかったよー」
なんだと!
1時間!?
槍ヶ岳の渋滞は聞いていたものの、ここまでとは。。。しかし目の前に見えるのは紛れも無い大渋滞。
おいおいおい休日の中央道よりひどいぞこれは。
ジワ……ジワ……
うーむ、全然進まん。
山頂なんて立ってから1分もしたらすぐ下るからすぐ動くだろ!と思いつつ、確かに1分に一人しか降りなかったら全然進まないよなとも納得。
あまりにも進まないのでツイッターしながら待機しますが、この辺で持ってきた水が尽きてきた。この炎天下に500mlしか持ってこなかったのは失敗。下からは雲が湧いてきているし。さっさと頂上に行きたい。でも雲がかかったほうが涼しくていいかも。
なんて気の迷いをしつついよいよ最後の階段。
ここを登ったら頂上。しかし、ここで更に5分待機。上の登山者からゴーサインがかかるのを見上げながら待ちます。首が痛い。
「登れますよーっ!」
おっ、コールが掛かった。待ちすぎて感慨とかいうものは無く、ただただ早く登らせてくれや……という気持ちではしごを登る。
頂上には10人ほどが更に列を成していました。なんてことはない、要するに山名板の撮影列がそのまま下まで降りていたのです。
山名板で記念撮影をしない私にとってはもうゲンナリする光景。まぁ、待たされたけどかろうじて周囲の視界はあるし良しとしますか。
東には今日歩いた道が延々見えています。結構ゴツゴツした稜線を歩いていた印象だったけどここから見ると緑が多い。
穂高方面はもう完全にガスっています。待ち時間さえなければこっちも見えたのだろうか……。
山頂には5分ほど滞在して下山開始。山頂では忘れていたけど若干手足がピリピリしてきている。軽い熱中症になっているようだ。
下りも多少渋滞するものの、待つものが無いので登りよりスイスイ下れて15分後には槍ヶ岳山荘到着。
本気でフラフラしてきたのでポカリスエットを購入して一気飲み!ふぅ……生き返った。
時刻はまだ1時なので槍平まで降りることも可能な時間だったけれど、疲労も考慮して殺生ヒュッテに泊まることにしました。
東鎌尾根を戻ってヒュッテ大槍へ。この道が思ったより長く感じたのは熱中症で体が重かったからかな。
ヒュッテ大槍からトラバース道を使って殺生ヒュッテへ。この道はほんまに行き絶え絶えで記憶がほぼない笑
殺生ヒュッテ到着!テント場は結構埋まってるようなので慌てて受付。
最後の力を振り絞ってテント場を徘徊しなんとか平らそうな区画を発見。張り終えた頃には本当に一歩すら動けなかったです。
2時間もするとちょっと雲が晴れてきた。
私たちが登頂してから雲に覆われてた槍も見えてきた。ここから見上げる三角形のフォルムのなんと美しいことよ。
若干元気が出てきたのでその辺を散歩。
まぁ散歩とはいえ疲れてるし何もないので、やる事といえば小屋でジュースを買いスマホを充電するくらいでした。
暗くなる前に夕食(カレーメシ)を食べて就寝。それにしても山で食べるカレーメシって最高に美味いですよね。実は昼食もカレーメシだったのですが、2食連続でも全く飽きないのが素晴らしい。中身を出してジップロックに入れ、直接お湯をそそぐ方式の利便性も最高だし、絶対に終売にならないで欲しい。
この日の午後は
「カレーメシってマジで神だな」
「カレーメシ持ってこない人間はアホ」
「カレーメシを忘れたらテンション終わる」
などとずっと話していたのである。人間って疲れると食い物の話しかしないんだなー。
いや、それにしても……疲れた1日だった。
つづく
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