書評:日本全国 境界未定地の事典
日本地図を見ていると、富士山の頂上で山梨県と静岡県の境界が不自然に無くなっていることが分かるだろう。この境界が「無くなっている」場所こそが境界未定地である。県境から市町村の境界まで含めると、日本に100箇所近くある。
本書はそうした境界未定地の周辺情報・発生原因・解消見込を全部網羅してある。「事典」の名に恥じない網羅っぷりにひたすら驚かされる。
感想
すごい面白い。なにが面白いかって境界未定地ごとに状況が異なっていて、読んでいて全く飽きないところ。
未定地の状況はおおよそ以下のパターンになっている。
長さ・・・100m以下から10km以上まで
原因・・・いつのまにか未定になっていた or 埋め立てで発生した
現状・・・問題ないので放置 or 意図的に放置 or 一応協議中 or 裁判中 or 近いうちに解消
これらのパターンが組み合わさって各未定地の個性を生み出している。
境界未定地はその大半が山奥や小さな溜池のような細かい場所である。下の箇所はその代表例といえる。
写真中央に境界がぷっつりと途切れている場所が2つある。これは印刷ミスでもなんでもなく、市町村の境界未定地である。
右側の溜池にかかっている未定地は池の上をまっすぐに通せばいいかと思いきや、そうは問屋がおろさない。溜池の管理に関する利害関係があるため、中々決められない。とはいえ、特に問題は発生していないため協議も実施されていないようである。ここは典型的な「ほったらかし系」の未定地と言える。
※ちなみに、こういう未定地の境界は国土地理院地形図だと途切れているが、GoogleMapやマピオンでは適当なラインに境界が引かれている。
「境界」は単に行政を区切る単位ではなく、文化・習俗・言語etc……を形作る重要な要素である。だからこそ何気ない境界線にも全て意味があるし、それを物言わぬ地図から読み解くことは結構面白いことを再確認した本だった。