タイの超ローカル線:1日1往復の「スパンブリー線」に乗る
タイは鉄道網が意外にも発達しています。幹線の他にもローカル線が何本も存在しています。有名なのは線路の上に市場があるメークロン線でしょう。
しかし、メークロン線は1日に4往復で3時間に1本は電車があります。これでも結構少ないですが、実はバンコク近郊にはそれを遥かに越える超閑散路線があります。それが「スパンブリー線」です。
列車は1日1本という理論上の最低本数。つまり、上り下りが各1本なので始発が終電となっています。しかも、上りは午前4:30スパンブリ発で下りは午後8:04スパンブリ着なので、乗っている間は殆ど真っ暗です。完全に旅行者泣かせの時刻になっています。
実はスパンブリ自体はバンコクからバスで2時間程度で行けます。しかし、鉄道では3時間以上かかってしまいます。バスより圧倒的に不便なこの路線を一体誰が使っているのか、タイの1日1本の超ローカル線はどういう雰囲気なのか、非常に気になったため行ってみました。
さて、南本線のナコンパトム駅にやってきました。ここはタイ最大の仏塔があることで有名です。本日はここからスパンブリー行きの列車に乗ります。
観光を終えて駅で待っていると30分ほど遅延したスパンブリー行きがやってきました。
通勤時間帯だからか、ホームには結構な人がいます。そのため車内はそこそこの乗車率に。
定刻から30分遅れて発車しましたが……なぜかドアを開けたまま発車してすぐに急停車、そして10分後に発車という謎の動きをしたせいで遅れがさらに拡大しました。
ナコンパトム駅から、スパンブリ線の起点となるノンプラドック分岐駅までの間には3駅あります。てっきり他の駅と同じように駅舎があるのかと思いきや、
???駅舎どころかホームすらねぇ。何もない線路上で停まったので、てっきり運転停車と思いきや、普通にドアが開いて人がゾロゾロ降りていったので驚きました。
さて、ナコンパトムから15分でスパンブリー線の起点駅となるノンプラドック駅に着きました。実はこの駅「戦場にかける橋」で有名な泰緬鉄道の起点駅です。そのため、日本語とタイ語の石碑があります。
そして、この駅はスパンブリー線の起点駅でもあるのですが、当然のように何もありませんでした。まぁ、駅で降りて隈なく探した訳ではないので、実はどこかにあったりするのかもしれません。
さて、いよいよ1日1本のスパンブリー線区間に入るわけですが、車内はこんな状況。
1車両に2~3人くらいですかね。4両編成なので10人くらいはいるようでした。
また、この駅で車掌が乗客全員に降車駅を尋ねていました。私も他の乗客と同じように「スパンブリー」と答えたら、車掌は頷いて後ろへ去っていきました。日本では中々みない光景です。というか降車駅を聞いてどうするのでしょうか?乗り過ごしそうになったら言ってくれるとか?
定刻から35分遅れでノンプラドック駅を発車しました。本線から離れて、森と畑が支配する完全な田園地帯をディーゼルカーが唸りをあげて進んでいきます。
実はノンプラドック駅から最初の駅まで時刻表的には30分以上の距離があります。ところが、なんと分岐駅から15分ほどで謎の駅に停車して乗客が5人ほど降りていきました。
なん……だと?時刻表にはそんな駅はないぞ・・・?
不可視の駅があるとは大変に驚きです。先ほどのホームが無い駅ですら時刻表にはあったのに。どういうことなんだ一体。
ちなみに、この駅はGoogleMap上ではしっかりと駅として記載されています。ますます謎が深い。
不可視の駅を出るともう完全に真っ暗になりました。ときどき踏み切りがあるため、完全な暗闇ではありませんが、日本の田舎をはるかに超える圧倒的暗さです。
2駅目(時刻表では最初の駅)で3人ほど降りてから、笠を被ったおじさんが乗ってきました。
↑慌てて途中駅を撮影した。駅での停車時間は数秒しかない
これで乗客は3人です。いよいよ人も少なくなってきました。
決して露出をミスったわけではなく、本当にこれくらいの暗さです。先ほどのように不可視の駅があるのかと思いきや、この後はありませんでした。ただ、正規の駅まで通過している。バスみたいな運行ですね…。
最初に車掌が降車駅を聞いてきたのは、駅を通過することが普通だからだと思われます。しかし、途中で乗ってくる人がいたらどうするのだろうか?まぁ、決まった場所で決まった人間しか乗り降りしないのでしょう。
さて、車内も車外も真っ暗という列車に乗る事1時間ほど。前方がぼや~っと明るくなってきました。スパンブリー市街の光です。
終点のスパンブリー駅あたりはちょっとしたヤードになっていて保線車両が留置されています。そういえば、ローカル線なのにスパンブリー線は揺れも少なく保線状況は相当に良好です。
列車はゆっくりと駅構内に滑り込みました。しかし、実はスパンブリー駅は街の相当郊外に位置しているため、周囲には田んぼしかありません。
前述したように、スパンブリー線は時刻表に存在しない駅が存在します。実は、終点であるスパンブリー駅の先にもマーメンラーイ駅という真の終点が存在するのです。
……という情報を車掌が教えてくれました。ホテルまで2km歩く覚悟だったのでこれは嬉しい。地図をよく見たら確かに線路自体は更に先に伸びていますねぇ。
スパンブリー駅では途中で乗ってきた笠を被ったおじさんだけが降車しました。代わりに清掃員と見られる青年3年が乗ってきました。
本来の終点から3分ほどで、真の終点であるマーメンラーイ駅に到着します。ホームはおろか信号施設もないため、駅というか路面電車の停留所レベルですね。
ここで私を含めて2人が降りました。周囲は完全に郊外で犬の鳴き声が遠くから聞こえてきます。危険な雰囲気は一切ないものの、普通の観光客が来るような場所ではないです。
列車は1分もしたらスパンブリー方面へ戻っていきました。おそらくは翌朝になってバンコクへ向かうのでしょう。
さて、本日の宿は駅から徒歩1分の場所にあります。DDBoutiqueResortという名前で、シングルが450バーツ。
部屋は清潔でその点については文句なし。
しかしホテル内にも周囲にレストランは無いため、あらかじめ調達しておく必要があります。ちなみに私の夕食はたまたま持ってたオレオになりました……。
さて、翌朝8時になったので、駅周辺を散策します。
昨日は全く気がつかなかったのですが、ホームらしきコンクリートがありますね。
また、線路を見ると驚くべきことにPC枕木を使用しており、非常にしっかりとした軌道になっています。おそらく大幹線とほぼ同じ水準なのではないでしょうか。揺れが少ないのも納得です。
また、駅近くにはなぜか電気機関車が放置されています。留置線なのでもなく、完全に放置ですね。なぜここにあるのかは不明。
駅周辺をみてからは、ホテルのフロントで呼んでもらったトゥクトゥクでスパンブリー中心部にあるバスターミナルへ行きました。ここからはバンコク行きやアユタヤ行きのバスが発着します。私はアユタヤへ行きました。
スパンブリー線は正直言って普通の観光客にはおすすめしませんが、バンコクから割りかし近いので、鉄オタやディープなタイにちょっとでも触れたい人にはぴったりのスポットだと思います。
おわり