転がる五円玉 ~旅と城と山~

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書評:観光亡国論 アレックス=カー・清野由美 著

 右肩上がりで観光客が増える昨今、その数は観光地のキャパシティをはるかに超えて交通や景観・住環境でトラブルが続発している。この問題をどう乗り越えるか?日本が真の観光立国となるには、なにを成すべきなのか?

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感想

 「観光客が多くなればいいってもんじゃない。消費してもらわないと。」というのが本書の主な主張になっている。

例として挙げられていたのは愛媛県大山祇神社。この神社は昔は港に着いた参拝客が500mほどの参道を通り、総門・神門をくぐって拝殿に至るという流れが存在した。

しかし、しまなみ街道の開通によって本土の道で繋がるとフェリーは廃止され、代わりに車で訪れる人が増えた。この状況を受けて、さらに便利にしようとして拝殿の近くにコンビニ付きの駐車場を作った。

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その結果どうなったか?確かに神社の参拝客は増えた。しかし参道を通る人はいなくなった。参拝客の消費が無くなり、典型的なシャッター街になってしまったのである。

これは典型的な「観光客が増えたが、消費が減った」例で、目先の利益を追い求めた結果、強みであった「上陸から参拝までの流れ」を潰してしまったのである。

 

 私も似たような光景を目にした事がある。下の写真は徳島県の祖谷のかずら橋である。

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祖谷は人を寄せ付けない峠に囲まれた秘境で、観光客は山深い景色と伝統的な山村の風景を求めて来ている・・・・・・のだが、巨大な駐車場が全てをぶち壊しにしている。

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とにかく浮いている。これも観光客のことを思っての施策だろうが、的外れすぎる。一時期のニコ動を思わせる圧倒的な滑りっぷりである。

※祖谷については、奥の方に行くと現代とは思えないような山深い村が残っているのでそちらはおすすめ。

 

 また、個人的に最もヤバいと思ったのが「ゼロドルツアー」の台頭だと思う。詳しくは以下の記事を参照して欲しい。

www.recordchina.co.jp

①中国の旅行会社が激安でツアーを組む

②中国人旅行者が旅行へ行く

③中国人経営のホテル・レストラン・土産物屋を利用する

 これの何が問題かというと、受入国に何のメリットもない点。受入国は整備コストをかけて観光地を維持しているが、それは維持するだけの観光収入が見込めるから。しかし、「ゼロドルツアー」の観光客は観光地を消費するだけで利益をもたらさない。

 今や日本各地に大型クルーズ船が寄航して大量の観光客が押し寄せているが、これは「ゼロサムツアー」によく似ている。クルーズ船の客は船上に宿泊し、食事をする。そのため、客単価が低い。それなのに、「たくさんの観光客が来るので儲かる!」なんて言ってるのは、ちょっと単純すぎる。

 

 と、まぁこんな感じで日本観光の現状の問題から未来に起こりうる問題まで色々と述べられている。これらの問題はきちんとしたデータに基づいており、無下にするべきではない。

2時間もあれば読破できるし、観光は業界の人間だけではなく全ての日本人が関わる(関わらざるを得ない)問題でもある。一度は読んでも損はないと思う。

 

 それにしても、日本ってつくづく観光に向いた国だと感じる。1000年以上前の歴史的建造物から飲み屋が連なる歓楽街まで、鄙びた美しい農村から高層ビルが並ぶ大都市まで、万年雪を被った高山から真っ白なサンゴ礁まで・・・・・・。

ここまで幅広い環境が揃っている国はそうそう無い。日本は資源を持たない国だと言われているが、決してそんな事は無い。観光を適切に管理すれば、製造業や金融業を超えて将来の日本を支える重要な産業になると、私は思っている。